EG短編小説:「声の大きさだけが、想いの強さじゃない」

EG短編小説:「声の大きさだけが、想いの強さじゃない」

こんばんにちは!
EGIJの渡部です!

 

実は前回アップしたEG短編小説:「色の違う歯車たち」が大好評だったようで、今回、第2弾を書いてみました!

前回のEG短編小説:「色の違う歯車たち」はコチラ!

またまた想像以上にニューロンがざわつく内容になったので、是非皆さんもご一読ください!

 


EG短編小説:「声の大きさだけが、想いの強さじゃない」

 

株式会社ハルカゼ物流の業務改善チームには、いつも不思議な温度差があった。

同じ会議に参加している。
同じ資料を見ている。
同じ目標を追っている。

それなのに、会議が終わるたびに、誰かが少し疲れていた。

チームの目的は、配送センターの業務効率化だった。
人手不足が続く中で、現場の負担を減らし、ミスを減らし、働きやすい仕組みをつくる。
会社としても重要なプロジェクトだった。

リーダーの北原は、いつも口数が多く、話しながら考えていた。

「まずは現場で感じていることを全部出しましょう」
「遠慮せず、どんどん言ってください」

彼は会議を盛り上げようとした。
黙っている人がいると、心配になった。

「中村さん、どう思います?」
「何か気になることありますよね?」

突然振られた中村は、少しだけ目を伏せた。

「……いえ、今は大丈夫です」

中村は、倉庫管理を担当していた。
仕事はいつも丁寧。
ただ、人前で即座に意見を言うのはあまり得意ではなかった。

本当は、気になることがあった。
新しいシステムを導入する前に、現場スタッフへの説明手順をもっと整理すべきだと思っていた。

けれど、会議の場で急に意見を求められると、言葉がまとまらなかった。

北原は悪気なく言った。

「大丈夫なら、次に進みますね!」

中村は、小さくうなずいた。
そのうなずきは「賛成」ではなく、「今ここでは言えない」という意味だった。
しかし、その意味は周りには伝わらなかった。

営業所長の小野は、自己主張性が右寄りだった。
決めるべきことは、すぐに、はっきり決めたい。
曖昧な空気が苦手だった。

「正直、このまま検討ばかりしていても仕方ないと思います」
「まずやってみて、問題があれば直せばいい」

彼の言葉には見えない圧力があり、会議の空気を前に進める勢いがあった。

一方で、総務の藤沢は、意見が対立する場面が苦手だった。

「小野さんの言うことも分かりますし、中村さんが気にしていそうな部分も大事だと思います」
「もう少し、みんなが納得できる形で進められるといいですね」

藤沢は、誰かを否定したいわけではなかった。
ただ、強い言葉が飛び交うと、場の空気が壊れてしまうように感じた。

小野は少し苛立った。

「みんなが納得するまで待っていたら、いつまでも進みませんよ」

藤沢は黙った。

その沈黙を見て、中村もさらに黙った。
北原は慌てて場を明るくしようとした。

「まあまあ、前向きにいきましょう。せっかくの改善プロジェクトですから」

しかし、その明るさが、かえって空回りする日もあった。

決定事項は増えていく。
でも、納得感は積み上がらない。

ある日、配送センターで小さなトラブルが起きた。

新しい作業手順を一部のチームで試験導入したところ、現場スタッフから不満が出たのだ。

「説明が急すぎる」
「誰に確認すればいいのか分からない」
「前のやり方と何が違うのか、ちゃんと聞いていない」

中村は、その声を聞いて胸が痛んだ。
自分が会議で言えなかったことだった。

北原は報告を受け、頭を抱えた。

「みんなで決めたはずなのに……」

その言葉に、中村は小さく言った。

「みんなで決めた、というより……声に出た意見で決まった感じがします」

会議室が静かになった。

小野が眉をひそめた。

「それは、言わなかった人にも責任があるんじゃないですか」

中村は顔を上げたが、すぐには答えられなかった。

藤沢が静かに言った。

「でも、言いやすい場だったかどうかは、考えた方がいいかもしれません」

北原は、その言葉を聞いて初めて気づいた。

自分は、みんなに発言してほしかった。
だから、積極的に問いかけ、テンポよく進めていた。

でも、それが全員にとって発言しやすい場だったとは限らない。

その翌週、チームは社内でEGを使った振り返り研修を受けることになった。

前回はEGの理論を学び、思考特性についてはある程度理解したメンバーもいたが、今回は行動特性に焦点を当てる内容だった。

アソシエイト(講師)は、最初にこう言った。

「チームの中では、“何を考えているか”だけでなく、“どう振る舞うか”の違いも大きな影響を与えます」
「むしろ、“どう振る舞うか”は目に見えるので、コミュニケーションエラーの原因になりやすいのです」

スクリーンには、3つの行動特性が映し出された。

自己表現性。
自己主張性。
柔軟性。

「自己表現性は、【感情を他人や世界に対して発信したいエネルギーの違い】そして、【人と関わり合おうとするエネルギーの違い】です。表情や声、反応が分かりやすい人もいれば、心の中でじっくり処理する人もいます」

北原は、今までの言動や振る舞いを振り返って苦笑した。
自己表現性は右寄りだった。

話しながら考える。
反応が大きい。
場の空気を明るくしようとする。

まさに自分だった。

一方、中村は自己表現性が左寄りだった。

考えていないわけではない。
関心がないわけでもない。
ただ、表に出すまでに少し時間がかかる。
言葉にする前に、自分の中で整理したい。

北原は、中村の方を見た。

「中村さんが黙っていたのは、反対じゃないからでも、関心がないからでもなかったんですね」

中村は少し驚いたようにしてから、静かにうなずいた。

「はい。考えていました。でも、会議のテンポが速くて、言葉にする前に次へ進んでしまうことが多かったです」

北原は、胸の奥が少し痛んだ。

「僕は、黙っていると不安になって、つい振ってしまっていました」

「急に聞かれると、余計に言えなくなることがあります」

その言葉に、北原は小さく頭を下げた。

次に扱ったのは、自己主張性だった。

「自己主張性は、【自分の考えや意見を他人に受け入れて欲しいと感じる頻度およびエネルギーの違い】そして、【自分の考えや信念、想いをどのようにして実現させようとするか】です。右寄りは、積極的に議論を行うことで、どんどん物事を前に進めようとします。対して左寄りは、衝突を避けながら、平和的に物事を前に進めようとします」

小野は自己主張性が右寄りだった。
必要だと思えば、遠慮なく言う。
対立があっても、結論に早く到達すること優先する。

藤沢は自己主張性が左寄りだった。
対立せず、揉めないような言い方を探す。
意見があっても、議論が活発になりすぎると少し引いてしまう。

小野は腕を組みながら言った。

「僕は、はっきり言うのが誠実だと思っていました。曖昧な方が、かえって不親切だと」

藤沢は少し考えてから答えた。

「私は、はっきり言われると、自分の意見を出す前に守りに入ってしまうことがあります。小野さんが悪いというより、言葉の強さに圧倒される感じです」

小野は、少し驚いた顔をした。

「そんなつもりはありませんでした」

「分かっています。でも、会議では“正しい意見を言える人”だけが残っていく感じがする時があります」

その言葉は、小野にとって予想外だった。

自分は、チームのために言っているつもりだった。
でも、その言い方が、誰かの発言の扉を閉めていたのかもしれない。

最後に扱ったのは、柔軟性だった。

「柔軟性は、【異なる考えや状況、行動を受け容れようとするエネルギーの違い】そして、【変化しなくてはならない場合に感じるストレスの度合い】です。右寄りは状況に応じて変えることを自然に感じます。左寄りは、一度決めたことを変更するより継続していくことで、安定した成果を出そうとします」

小野は柔軟性も右寄りだった。

「まずやってみる」
「問題があれば変える」
「状況に合わせて動く」

それは、彼の強みでもあった。

一方、中村は柔軟性が左寄りだった。

一度決まったことを大切にする。
変更があるなら、事前に理由と流れを知っておきたい。
急な変更には強いストレスを感じる。

小野は中村に向き直った。

「僕が“とりあえずやってみて、ダメだったらどんどん変えよう”と言うたびに、不安にさせていたんですね」

中村は、少し申し訳なさそうに言った。

「小野さんが変化を求めたり、色々試したいのは、充分に分かっています。ただ、現場は一度動き出すと簡単には戻せないので、変更の前に準備時間が欲しかったんです」

小野は、しばらく黙ってから言った。

「僕には、準備に時間をかけることが止まっているように見えていました。でも、中村さんにとっては、現場を混乱させないための大事な時間だったんですね」

中村は静かにうなずいた。

振り返り研修の最後に、アソシエイトが言った。

「行動特性の違いは、見えやすい分、誤解されやすいものです。
声が大きい人が、強い想いを持っているとは限りません。
物静かな人が、考えていないとは限りません。
すぐ動く人が雑なのではなく、慎重な人が消極的なのでもありません」

北原は、その言葉をノートに書き留めた。

声の大きさだけが、想いの強さじゃない。

その日から、業務改善チームの会議は少しずつ変わった。

北原は、会議の最初にこう言うようになった。

「今日は、まず三分間だけ各自で考える時間を取ります。その後、順番に意見を聞かせてください」

中村は、その三分間でメモを取った。
短い箇条書きでも、言葉にする準備ができるだけで、発言のしやすさがまるで違った。

「現場説明の前に、変更点を一枚にまとめた資料が必要だと思います」
「あと、初日は質問窓口を明確にした方がいいです」

北原はうなずいた。

「ありがとうございます。そこ、前回抜けていましたね」

小野は、反対意見を言う前に一呼吸置くようになった。

「僕は早く試したい派です。ただ、中村さんの言う準備資料は必要だと思います。資料作成に何日あれば現実的ですか?」

中村は答えた。

「二日あれば作れます」

「では、二日後に資料確認、その翌週からテスト導入ならどうですか」

藤沢は、会議の途中で場の温度を言葉にする役割を担うようになった。

「今、小野さんのスピード感と、中村さんの安定運用の視点が出ています。どちらかを選ぶというより、準備して早く試す形にできそうです」

その言葉で、会議の空気がやわらいだ。

以前なら、強い意見と静かな不安がぶつかっていた。
今は、それぞれの行動特性が、役割として見えるようになっていた。

北原は、積極的に表現することで場を開く。
中村は、静かに考え、冷静に抜け漏れを防ぐ。
小野は、スピード感をもって前に進める。
藤沢は、対立が起きないように関係性を見ながら対話をつなぐ。

誰かが変わったというより、
誰かの違いを、チームが扱えるようになった。

二度目のテスト導入は、前回とはまるで違った。

現場スタッフには、事前に変更点の資料が配られた。
初日の朝には、北原が全員の前で説明し、小野が導入の目的を力強く伝えた。
中村は質問対応の窓口として待機し、藤沢はスタッフの不安や戸惑いを丁寧に拾った。

一週間後、現場から届いた声は前向きだった。

「今回は分かりやすかった」
「困った時に誰に聞けばいいか分かった」
「新しいやり方の意味が理解できた」

会議でその報告を聞いた時、北原は静かに笑った。

「前回と何が違ったんでしょうね」

小野が答えた。

「準備してから動いたこと」

中村が続けた。

「動く前に、現場が困りそうなところを確認できたこと」

藤沢が言った。

「それぞれの進め方を、否定せずに組み合わせられたことだと思います」

北原はうなずいた。

「確かに。誰か一人のやり方に合わせたのではなく、全員の行動特性を活かせたんですね」

その日の会議室には、以前とは違う空気が流れていた。

北原は相変わらずよく話した。
中村は相変わらず静かに考えた。
小野は相変わらずはっきり言った。
藤沢は相変わらず場の空気を見ていた。

誰も、別人になったわけではない。
それでも、チームは確かに変わっていた。

違いを直すのではなく、
違いを知る。
違いを責めるのではなく、
違いを活かす。

それが、チームビルディングなのだと、北原は思った。

数か月後、業務改善チームの取り組みは全社に展開されることになった。
報告会の最後、北原はこう話した。

「今回、私たちが学んだのは、声の大きい人だけでチームが動くわけではないということです。
すぐに発言する人も、じっくり考える人も、はっきり言う人も、対立を避ける人も、変化を好む人も、現状維持を好む人も、それぞれにチームを支えています」

会場の後ろで、中村が静かにうなずいた。
小野は少し照れたように笑い、藤沢は穏やかな表情でメンバーを見ていた。

北原は続けた。

「チームビルディングとは、全員を同じ振る舞いにそろえることではありません。
違う行動の特性を理解し、安心して力を出せる環境をつくることです」

その言葉を口にした時、北原はふと思い出した。

あの日、中村が言った一言。

「声に出た意見で決まった感じがします」

もう、あの言葉を繰り返したくはなかった。

会議室に戻ると、次の改善テーマがホワイトボードに書かれていた。
北原はペンを持ち、いつものように言った。

「では、まず三分間、考える時間を取りましょう!

小野が笑った。

「北原さん、変わりましたね」

北原も笑った。

「変わったというより、覚えました。すぐ話す人だけが、考えているわけじゃないって」

中村が、少しだけ口元を緩めた。

藤沢が時計を見て言った。

「では、三分後に順番に聞いていきましょう」

会議室は静かになった。

けれど、その沈黙はもう、遠慮や諦めの沈黙ではなかった。
それは、それぞれが自分の言葉を準備するための時間だった。

三分後。
最初に口を開いたのは、中村だった。

「今回、現場目線で先に確認しておきたいことがあります」

その声は大きくはなかった。
けれど、確かにチームを前に進める声だった。

 


 

いかがでしたでしょうか?
今回も感情が動かされたのは私だけではないはず!

皆さんの組織が次の「株式会社ハルカゼ物流の業務改善チーム」になることを願っております!!

 

次回のブログは西がお届けします!

See you!!

 


 

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